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研究内容

不純物ドープダイヤモンドの電子状態
photo ダイヤモンドは絶縁体である、とよく言われます。 ”電気伝導性がない物質”=”絶縁体”と考えたいところですが、電気伝導の基礎的な機構を考えた場合、金属的であるかそうでないか、の2種類に分類されます (1次元物質などの電気伝導機構や、量子効果が現れる状況ではもう少し細かな分類が必要です)。 金属的ではない(絶縁性の高い)ダイヤモンドもホウ素を添加すると電気抵抗が小さくなりp型半導体の性質を示すようになります。 さらにホウ素の濃度を高くしていくと、およそ0.1%程度の濃度で金属的に(電気抵抗が小さく)なることが知られています。 近年、さらにホウ素濃度の高い領域で超伝導が観測[1]され、そのメカニズムに興味が持たれています。 我々の研究室では、電子状態を通じて超伝導出現のメカニズムを探るため、放射光軟X線吸収発光分光法を用いて、 ダイヤモンド中のホウ素と炭素の2p電子状態の観測を行っています。[2,3] また、ホウ素以外の元素を不純物とした研究も行っています。[4]
[1] E.A. Ekimov et al., Nature 428 (2004) 542.
[2] J. Nakamura et al., Phys. Rev. B 70 (2004) pp.245111/1-6.
[3] J. Nakamura et al., J. Phys. Soc. Jpn., 77 (2008) pp.054711/1-6.
[4] M. Mori et al., J. Phys. Soc. Jpn., 84 (2015), pp.044704/1-6.

グラファイト層間化合物の物性研究
BCS理論に従う超伝導物質では、フェルミ準位における電子状態密度、デバイ温度、電子格子相互作用のそれぞれが大きい(高い)ことが高い転移温度につながります。
化合物などでは、母物質が金属的であることがフェルミ準位の高い電子状態密度の要請に応えます。 実際に多くの単体金属は低温で超伝導を示すことが知られており、初期の超伝導物質探索では合金系を中心に研究が行なわれてきました。 2つ目の高いデバイ温度は、簡単に言えば格子振動の周波数が高い(格子振動のエネルギーが高い)ことを示します。 この条件に、3つ目の電子格子相互作用が上手く加わると、超伝導体の電気伝導の担い手であるクーパー対の安定性が高まり、高い超伝導転移温度に結びつきます。 デバイ温度は原子間の結合の強さを示しており、結合が強いほど格子振動のエネルギーは高くなります。 更に、格子振動のエネルギーは構成元素の質量にも依存し、軽い元素の方が振動数が高いことがわかっています。 BCS理論で同位体効果という現象があります。これは、同じ元素で質量数の異なる同位体を用いた”同じ化学式の”物質間における転移温度の変化を測定するもので、格子振動の周波数が構成元素の質量に依存し、それが転移温度に影響していることを利用しています。
この観点から、グラファイトは、1) 炭素という軽い元素から出来ている、2) sp2混成軌道という強固な共有結合で構成されている、ことから、これに電気伝導の担い手であるキャリアを注入することが出来れば高い転移温度の超伝導物質になることが期待されています。
photo グラファイトの層間に元素を挿入したグラファイト層間化合物は、主としてアルカリ金属を挿入元素として研究が行なわれてきましたが、その超伝導転移温度は決して高いものではありませんでした。 2005年に Emeryらは、アルカリ土類元素であるCaやYbを挿入元素として、非常に高い超伝導転移温度が実現することを発見しました。[1] この超伝導の発現機構は、それまでのアルカリ金属を挿入元素としたものとは異なることが提案されており、当研究室でも関連物質の作製と転移温度や電子状態との関連について研究を行っています。[2]
[1] Emery et al., Phys. Rev. B 95 (2005) 087003.
[2] A. Nakamura et al., DIAM2013, 2013.9., Riva Del Garda, Italy.

不安定原子核を用いた物性研究
グラファイトの層間に挿入した元素の電子数はどうなっているでしょうか。 グラファイトは炭素原子がsp2混成軌道を作って共有結合による蜂の巣構造の炭素層が互いに分子間引力(ファンデルワールス力)により弱く結合した物質です。 その層間に入った元素は炭素層間のファンデルワールス結合の代わりに「(炭素層)-挿入元素-(炭素層)」という結合を作ります。 その結合がどのようなタイプの結合であるのか明らかにする方法の一つは、挿入元素の価数を決めることです。 価数を決める実験手法はいくつかありますが、最も直接的に価数を求める方法の一つがメスバウアー分光という方法です。
小林義男研究室と共同で、メスバウアー分光と磁化測定を用いたグラファイト中の鉄の振る舞いの研究を行っています。

遍歴電子・局在電子競合系の磁性の研究
OIコース所属の大学院学生が始めた新規のテーマです。教員も一緒に勉強中です。
酸化物磁性体などでは局在電子が主役であるのに対し、金属ではバンド電子(遍歴電子)が、その磁性を担います。通常の磁性化合物では、その磁性を担うフェルミ準位近傍の電子は遍歴性もしくは局在性のどちらかに区別される場合が多いのですが、4f電子が不完全殻である希土類元素と3d電子が不完全殻である遷移金属元素の両方を含む幾つかの化合物では、遍歴的なd電子と局在性の高いf電子の両方が磁性に寄与するものがあります。これらの磁性にはまだまだ未解決の現象が多く、試料作製から構造解析・磁化測定を行なっています。

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実験設備

試料作製
photo 学生が立ち上げたマイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)装置で、Si基板上にダイヤモンドを作製しています。 マイクロ波用の電源・発振器・導波管などを組み合わせたもので、不純物をドープするための各種方法に合わせて「改造」しています。
その他、通常の電気炉やそれに真空容器を組み合わせた真空焼成炉なども利用し、グラファイト層間化合物の作製を行っています。

試料評価
研究設備センターの粉末X線回折装置、ラマン分光装置、PPMS、EPMA、光電子分光装置、SQUID等を用いて結晶性等の評価を行います。 電子状態の研究にはEPMAや光電子分光装置の他、放射光を用いた軟X線吸収発光分光を用い、特定の元素の特定の軌道にある電子の状態密度の 観測を行っています。 また小林義男研究室のメスバウアー分光装置や SPring-8の核共鳴分光装置を用いた物性研究を開始しています。

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研究手法

軟X線吸収発光分光
固体中の電子状態は結合に関わるものとそうでないもので大きく異なります。 結合に余り関与しない電子の代表が内殻電子で、その様子は水素様原子のモデルに比較的近いと考えられます。 結合に関与する電子は、いわゆる価電子などと呼ばれるものが代表で、これらの電子が固体の電子物性を担っています。 エネルギー空間では、これらの電子はフェルミ準位近傍に存在しています。 従って、フェルミ準位近傍の電子状態(状態密度や波数空間の分散など)を調べることが固体物理の主要なテーマの一つになっています。
X線分光では、固体にX線を照射し、内殻準位の電子を励起し、その励起の照射X線エネルギー依存性を観測したり、励起後の軟X線領域の放射緩和過程を分光して電子状態の情報を得ます。
試料に照射(入射)したX線のエネルギーが試料(固体)内の電子の結合エネルギー(+仕事関数)よりも高い場合、励起された電子は試料外部に飛び出すことが出来ます。 その結果内殻に正孔が生成されます。 この内殻正孔(がある電子状態)は安定ではなく、それよりもエネルギーが高い電子軌道の電子がより低い(安定な)内殻準位の正孔を埋めるように遷移して、系全体として安定になろうとします。 その遷移の際のエネルギー散逸は、熱または光の放射緩和という形で行われます(正確には他の電子を励起して散逸する過程など、いくつかの過程があります)。
軟X線分光では、照射X線に軟X線(おおよそ1keV以下のエネルギーのX線)を用います。 このエネルギーで内殻1s軌道に正孔を生成し、その正孔を2p軌道電子による放射遷移で緩和される元素は、例えばB、C、O、Nなどです。 以下にC(炭素)を例に説明します。
炭素の1s軌道のエネルギーはフェルミ準位から測っておよそ-280eVの位置にあります。 従ってこの電子(C-1s軌道の電子)を励起するためには280eV以上のエネルギーが必要です。 従って、炭素を含む試料に照射する軟X線のエネルギーを、250eVから少しずつ上げていくと、280eV以上で初めて内殻1s軌道の電子を励起して電子の空席に移動することが出来ます。 励起された電子は固体試料の電子状態の空席(非占有状態)に励起されますが、さらにエネルギーを高くしていくと、そのうち固体の外部に飛び出していきます。 この飛び出した電子が光電子です。 280eVで励起された電子の数は空席の数に依存します。 照射するX線の数(光子数)や試料内部の自己吸収などの補正を行うと、照射エネルギーの関数として計測した励起電子数(吸収量で観測することが多い)は、非占有状態の電子状態密度を表します。
励起の後、内殻正孔は他の電子の遷移により緩和されますが、非占有状態に励起された電子がそのまま元の準位にもどる放射緩和(弾性散乱)と、フェルミ準位の少し下の占有状態にある電子が放射緩和する場合の両者があります。 前者は弾性散乱なので、照射した軟X線のエネルギーと同じエネルギーの軟X線が放射されます。 後者は照射エネルギーよりも低いエネルギーの発光となり、試料からの発光をエネルギー分光することで両者を区別することができます。 後者は占有状態の電子状態密度を反映させる場合と、同時に格子振動や電荷移動などの励起を伴う非弾性散乱の発光過程が重なる場合があります。 これらは照射する軟X線のエネルギーを変えながら発光分光をすることにより区別可能です。 今の例の場合は、C-1sとC-2pの間の励起・緩和遷移であるので、炭素化合物のなかの炭素2p軌道だけの状態密度(これを部分電子状態密度と呼びます)を観測していることになり、極めて特色のある実験手法です。
この実験にはエネルギー可変の軟X線領域の高輝度光源が必要であり、放射光施設で行われます。

メスバウアー分光
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