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実験レポート作成上の注意

最終更新日:2021年4月29日

 ここでは、電気通信大学1年次の基礎科学実験Aのレポート作成を想定した注意点をまとめる。 ただし、以下の項目を満たしていれば完全なレポートであるということではなく、また、一部は担当教員の個人的な意見も含まれている。 科目としての正式な資料は 基礎科学実験A のページを参照すること。

icon 体裁

 実験レポートの本文は通常、§ 1.目的、§ 2.原理、§ 3.実験方法・手順、§ 4.実験結果・解析、§ 5.考察、§ 6.まとめ、から構成される。 テーマによっては分量などの理由で実験結果と解析を分ける場合もある。 また、実験授業のレポートでは、実験結果の解析と別に課題が提示されている場合があるので、その場合は考察の前後に適宜挿入する。

§ 1.目的
 そのレポート(実験)の目的を出来る限り具体的に書く。 「~の値を(〇〇の精度で)求める」、「~の法則を検証する」などが典型例である。 目的の内容は、レポート最後の§ 6.まとめの内容と対応させるべきである。 「~の原理を理解する」のような目的は、達成できたかどうかを客観的に述べることが困難であるので、レポートの目的としては避けるべきである。

§ 2.原理
 実験で求める物理量がどのような原理に基づき、どのような実験装置を用い、直接観測される計測値からどのような解析手順を経て得られるのかを簡潔に記述する。 実験テキストの丸写しは避けるべきである。 また、説明になっていない程に簡略化された実験レポートをみることがあるが、それでは意味がない。原理の記述は現在形で記述すべきである。 基礎科学実験Aの内容は物理実験であるので、通常は式および図と文章を適宜交えて記述する。 式や図表には番号を付けて引用出来るようにすること。

§ 3.実験方法・手順
 実験手順を記載する場合は、マニュアルではないので実際にやった内容に即して記述する。実験テキストに記載されていても行っていない内容に関して記述するべきではない。 手順の記述は過去形で記述すべきである。
※実験テキストに書かれた手順は、「これからやること」なので現在形で書かれている。

§ 4.実験結果・解析
 原則として、計測した数値は全て記載する。 データ数が多い場合は、適宜、表の形をもちいて見やすくする。 これらの数値または計測値から求めた物理量は図にした方がその変化がわかりやすい場合が多い。 通常は実験テキストに指示があるので、それに従って図を作成する。
 計測した数値および図などから得られた物理量や、それらの複数の物理量から最終的な目的である物理量を求める過程をここに記述する。 その際、§ 2.原理で示した式などを引用することが多いはずである。 稀に、計測結果を示したのちに「式(**)を用いて以下の結果が得られた」と、最終結果のみを記述したレポートをみることがあるが、式に数値(と単位)を代入し、計算の途中経過を追える記述を含めるべきである。 不確かさの見積もり等も解析の一部として記述する(テキストに「課題」として課されている場合は、 別途課題の項目を作成して、そこに記述する方がよい)。

§ 5.考察
 考察は、計測・解析の結果得られた物理量の値や、現象そのもの等について、比較しうるもの(たとえば文献値や物理モデル等)があれば、その妥当性を検討する。 不確かさを考慮した上で、文献値や定義値との差が大きい場合はその原因について、モデルに基づく予想とは異なる振る舞いが観測された場合はその理由について、等々が良くみられる実験レポートの考察であるが、これら以外にも、実験中に気付いたことを自由に記述して良い。
 ただし、対象は物理現象や計測結果、解析結果、またそれらに関連する実験手法や解析手法等であり、事実の確認(の記述)を出発点とした論理的な記述が必須となる。定性的または定量的な記述の区別についても注意すること。

§ 6.まとめ
 まとめは、目的で述べた項目に対応させて、簡潔に述べる。

その他
 最後に感想が書かれているレポートがあるが、感想は必須ではない。実験授業の提出物として、教員側には参考になる場合もあるが、感想の有無や内容によって実験レポートの評価が変わることは(おそらく)無い。

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icon 物理量と単位

 物理現象をモデル化して記述する際、数学の力を借りて数式で表現することが多い。 例えば力学的現象であれば、質量や重力(加速度)、位置などの量を考えることになる。 これが物理量である。 式の中では物理量は記号で表現される。この記号を「量記号」と呼び、通常はアルファベットまたはギリシャ文字が充てられる。
 物理量は一般に、その値として、数値と単位の組み合わせで表現される。 単位は現在、SIで指定されたものを用いることが国際的なルールとなっており、この単位の記号と区別する目的で
量記号は斜体
単位の記号は立体
と定められている。 数値も立体で表記する。
 例えば質量の量記号を $m$ として、1円硬貨の質量は $m = 1~{\rm g}$ と表現される。 似たような記述であるが、以下の表現は全て誤りである。
$m = 1~({\rm g})$, $m = 1~[{\rm g}]$, 質量 $m({\rm g})$ または $m[{\rm g}]$等
 量記号は、「量記号」=「数値」×「単位」と代数的に扱うことが約束されており、従って、「数値」=「量記号」/「単位」という表現が許される。上の例に倣えば、$1 = m/{\rm g}$ と書くことによって、質量の数値部分を(単位を指定して)表現することが出来る。 つまり
$m = 1~{\rm g}$ と $1 = m/{\rm g}$ は等価で正しい表記
である。 この表記方法は後述のグラフと表の書き方で推奨されている記法である。 一方で、「$1 = m/{\rm g}$ は正しい表記」であるが、レポート本文中などでは「$m = 1~{\rm g}$」の表記が一般的であり、敢えて前者で表記する必要はない。 図表で推奨されている表記方法と理解した方がよい。
 量記号のアルファベットには何を用いても良いが、習慣的に用いられているものは無暗に変えるべきではない。 また、電子の素電荷($e$)や真空の光速度($c$)などのように、基礎物理量に相当するものの量記号に他の文字を充てることはしない。 これらの文字を他の物理量に充てることも避けるべきであるが、例えば熱力学の議論の中での比熱を $c$ と書くことのように、誤解が生じないことが明らかな場合は、この限りではない。

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icon グラフと表の書き方

必ず 基礎科学実験A の「資料」のページを参照すること。
【グラフの書き方】
  • 図の番号とタイトルを下部につける
     図は本文で引用できるように、「図1. ○○…」のように必ず番号をつける。 実験の原理図や、結果のグラフも全て「図」で通し番号を付けるべきなので、「グラフ1. ○○…」とはしない。 タイトルは図の内容を簡潔に説明できる文章や名詞句が一般的である。 ここで「○○と△△」よりは、「○○の△△依存性」、「○○の△△変化」のように具体的に書く。
  • グラフの縦軸と横軸の物理量はどうするか
     2つの物理量の関係を実験的に観測した場合、それらを縦軸と横軸にとってグラフに表すことは、実験結果の解析では必須ともいえる作業である。 この際、2つの物理量のどちらを縦軸に、または横軸にとるべきだろうか。 考え方は主に2通りある。

    1. 通常は、2つの物理量のうちの一方が実験者が変化させた量(制御変数と呼ぶ場合もある)であることが多く、その場合は「変化させた量」を横軸に、そして他方の物理量は「それに対する応答」であるだろうから、それを縦軸にとる。

    2. それら2つの物理量の関係を表すモデル式が示されている場合、その左辺に相当する量を縦軸にとる。 この場合も、数学的に $y=f(x)$ というような式を考えた場合は、$x$の変化に対する応答としての $y$ と考えれば1.と同じで横軸に $x$、縦軸に $y$ をとる。 しかし、最終的に求めたい物理量をわかりやすく記述する目的で、制御変数を左辺にとるモデル式もあり、それぞれの軸にどの物理量をあてるかは適切に判断する必要がある。

    原則は1.であるが、解析上の観点で入れ替えても問題ない。 また、実験者が積極的に変化させた物理量がなく、ある値(物理量)の時間変化を計測するような場合は、横軸に時間軸をとるべきであろう。 同様に、ある値の温度変化をとるような場合(この場合は積極的に温度をコントロールする場合と、自然に温度が変化する場合の両方がありえる)も、横軸は温度ととるべきである。 共に、グラフのキャプションとして、「○○の時間変化」とか「△△の温度変化」と書ける。横軸には「…変化」の前の物理量がくるのが自然である。
  • グラフの縦軸・横軸のラベルは、量記号/単位
     グラフの軸の量は、本文中で用いた物理量の量記号を単位で割った、無次元の数値とした量をとる。 ラベルを量記号/単位とすることで、軸の数値を単位を含めて明確に読み取ることが可能となる。
     たとえばヤング率の実験で、「おもりの質量(${\rm g}$)」でも間違いではないが、おもりの質量を $m$ と定義した上で、グラフの軸は「$m/{\rm g}$」とする。 単位の${\rm g}$はgでも良いが、物理実験の教員は${\rm g}$の方を好んで使用する傾向がある(と思う)。
  • グラフの縦軸・横軸の目盛りは等間隔
     グラフの軸には適切に目盛り(線と数値)をふる必要がある。 これらの間隔は等間隔とする(線形軸の場合)。 プロット点に対応した縦軸・横軸の位置に数値などを記入している例を見ることがあるがその必要はない。 また、左下の隅を原点(0,0)にとることに拘る必要はなく、物理的に意味のある軸の範囲を選ぶこと。
  • 原則としてフレームグラフ
     基礎科学実験Aではグラフは方眼紙(一部は対数グラフ用紙)に手書きでかくこととしているが、 将来(専門実験や卒研等)はグラフ作成ソフトウェアを用いて作成し、印刷する(PDF化する)ようになる。 その際、グラフ上のプロットから出来るだけ正確な値が読み取れるように、縦軸・横軸ともに左右・上下に軸と目盛りをかき、定規等をあてて容易に数値が読み取れるようにすべきである。 そのために、基礎科学実験Aでは、グラフは原則として軸が四角になっているフレームグラフを基本としている。 一方で、原理等で示す場合の定性的なグラフの場合はこの限りではない。
  • プロット点の大きさ
     プロット点は○や□などを用いて、その位置にデータがあることが明確になる程度の大きさが必要である。 データ点の不確かさが見積もられている場合は、その大きさに反映させるか、エラーバー(不確かさのバーと言うべきかもしれない)を用いて表現する。条件等の異なる複数のデータ群を重ねてプロットする場合は、凡例(はんれい、プロット点の記号と対応する条件などの対)を、実際のプロット点とは明確に区別できる位置に示すこと。
  • 折れ線グラフはNG
     基礎科学実験Aで扱う物理現象は、滑らかな変化を離散的に計測しているものが大半であるため、その変化をグラフに表した場合に折れ線で結ぶことはしない。 将来、微分不可能な現象をグラフ化することがあれば、折れ線グラフでも良いかもしれない。 また、グラフの横軸のデータ点数(サンプリング数)に対して縦軸物理量の本来の変化が緩やかであり、その変化量に対して無視できない大きさのノイズがのっている場合に、ノイズのレベルを示す目的で折れ線で表記する場合もあるが、基礎科学実験Aの段階では、そこまで考慮しなくてよい。

  • 【表の書き方】
  • 表番号とタイトルを上につける
     図と同様に、本文で引用できるように、「表1. ○○…」のように必ず通し番号をつける。 図のタイトル(caption)は下につけるが、表では上につける。
  • 横罫線は必要
     罫線は見やすいように引くべきである。 特に、表の上下の横罫線は、レポート本文中の表の範囲を明示する意味で必須である。 途中の横罫線は、必要に応じて引けばよい。 予め横罫線付のレポート用紙を使用して手書きで書く場合も、表の罫線は改めて引くこと。 縦罫線は無くても良い。外国語の学術論文や技術系文書内の表では縦罫線は無い場合が多い。
  • 「量記号/単位」を上手く使う
     図の縦軸横軸のラベルで用いた「量記号/単位」の表記を上手く使うこと。 例えば温度の時間変化についての多数の計測データを表にする場合、第一行に「$t$」「$T$」としても良いが、その場合は、全ての数値に単位を付ける必要があるが、「$t/{\rm s}$」「$T/ ^{\circ}{\rm C}$」とすれば、数値のみを示せばよいので、表全体が見やすくなる。

    $ 表1 液体の温度の時間変化 \\ \begin{array}{cc} \hline t & T \\ \hline 0~{\rm s} & 19.0~^{\circ}{\rm C} \\ 30~{\rm s} & 19.6~^{\circ}{\rm C} \\ 60~{\rm s} & 20.1~^{\circ}{\rm C} \\ \vdots & \vdots \\ \hline \end{array}$     $ 表1 液体の温度の時間変化 \\ \begin{array}{cc} \hline t/{\rm s} & T/ ^{\circ}{\rm C} \\ \hline 0 & 19.0 \\ 30 & 19.6 \\ 60 & 20.1 \\ \vdots & \vdots \\ \hline \end{array}$

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    icon 論理的な文章

     考察に限ったものではないが、理工系の文章では論理的であることが重要である。 観測結果などは不確かさも含めて事実であり,その記述に読者の推論の余地が含まれてはならない。 考察などでは結果に対する著者の解釈など主観的なものが含まれうるが、その議論の道筋(論理)が明確に読者に伝わる必要がある。 論理的な作文技術のキーポイントはいくつかあるが、ここでは以下の2つを取り上げる。
  • 【接続関係】
     論理的な文章表現で接続関係は非常に重要である。 すなわち、文章と次の文章の関係,段落とその次の段落の関係を接続詞などを適切に用いて明瞭化する。 以下に例をあげてみる。

    「試料Aの電気抵抗をテスターで測定すると0.1Ωだった。試料Aは金属である。」
    「試料Aの電気抵抗をテスターで測定すると0.1Ωだった。したがって試料Aは金属である。」

    上記の例で2つ目の例では帰結を表す接続詞「したがって」によって前後の文章の関係が示されており、よりわかり易くなっている (ここで、日本語としてわかり易い文章が、必ずしも理工系文章としての論理性を備えているかは別なので注意が必要である)。
     前の文章(内容)から次の文章(内容)が結論されることを示す 接続関係を明確に示す用語を列挙すると、そして(付加)、なぜなら(理由)、たとえば(例示)、しかし(転換)、すなわち(解説)、だから(帰結)、ただし(補足)などがある。1 帰結に「だから」、「したがって」、「それゆえ」などがあるように上記の単語は代表的な一例である。 これらの接続関係を示す接続詞・副詞などを積極的且つ適切に使用して、論理関係が明確になる文章を作文する。
  • 【論証】
     論証とは、ある前提から何らかの結論を導くことである。 すなわち論証の形としては、「AであればBである」というものが多いが、AとBの内容に大きな隔たりがあると説明したことにはならない(説得力がない)。 一方で、AとBの内容の差が小さすぎると、議論が進まない。 Bの結論に対してAには根拠が含まれ、説得力がない場合は根拠と結論を結びつける導出が必要となる。 上記の例を再度確認してみる。

    「試料Aの電気抵抗をテスターで測定すると0.1Ωだった。したがって試料Aは金属である。」

    日本語としては一見正しいように見えるが、「電気抵抗が小さい」ことから「物質が金属である」ことは、実はただちに導けるものではない(説得力がないタイプである)。 「物質が金属である」ためには、電気抵抗の温度変化(依存性)を確認する必要がある。 たとえば、

    「試料Aの電気抵抗を室温で測定すると0.1Ωだった。 試料Aを氷水で冷却すると、電気抵抗の値は1割弱減少した。 試料Aの電気抵抗値と試料温度の間には正比例の関係が予想され、試料Aは金属であると考えられる。」

    (2点のデータで比例関係と言ってよいかどうかはさておき)上記の文章は前の例に比べ、著者の思考が読者に伝わりやすくなっていることは明白である。
     論理的な文章を書くということは、論理的な思考をするとともに、それを表現することである。 論理的な論証もしくは導出に十分なデータが存在しない場合は、むやみに無意味な結論に結び付けることは避ける。 上記の例は、「AであればBである」という演繹的なものではなく、「Aが確認されたので、おそらくBである」という推察的な論理展開である。 従って文章のまとめ方として、「…であると考えられる。」としている。 その前の「…が予想され、」の推察した関係が否定された場合は、その後の帰結も覆る可能性があるためである。 類推や推察による結論を示す場合には「…である。」という断定的な表現は避けた方がよい。
     主観的な「我々は(私は)…と考えている。」という表現は、最近増えているように思われるが、学生実験のレポートでは登場する機会は少ないかもしれない。 これは一般的に学部低学年では、推察のみで論理展開をする場合の絶対的な知識量が少ないと考えられているためで、それらがクリヤーされればこの限りではない(はず)。

  • 参考文献
    [1]「論理トレーニング101題」野矢茂樹著,産業図書.

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